karstereoです。

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2010年代を超個人的に振り返る【RHYMESTER ダーティーサイエンス】

※この記事は2020年3月15日にnoteにて公開したものを移行したものです。

 

 

僕はテーマ別に音楽を語る記事や文章が好きです。
この時期というのもあるのか2010年代をまとめた文章が最近目に入ります。
この10年間の象徴のような作品群を振り返る事でどのような時代だったか知る事ができるし、これからの10年を予測する楽しみ方も出来る。
10年ごとの区切りなんて本来は合ってないようなもののはずなんですが、なんかテンション上がりません?

 

一方でこの10年間、僕自身は正直そんなこと全く考えずに音楽を聴いてきました。
大学の友人や職場の人間よりは音楽を聴いている自負はありますがその程度のものであり、時代背景とかトレンドとかマクロな視点で音楽を意識したのは本当に最近の話。
好き勝手に自分の好みの音楽を吸収してきています。

 

だからこそ、あえて己に正直に、『自分が』この10年で聴いてきた音楽を振り返りたいと思います。
10年前の自分の趣味なので正直いなたい部分もあるしそれを表明する気恥ずかしさもあるのですが、世の中的に2010年代を象徴する名盤(Flank OceanのBLONDEとかね)以外にも、この時代を語る何かはあると思うんすよ。
そしてその何かはやっぱり自分の好きなものでありたいんですよね。
(そして自分の好きな音楽を表明する事で何かオススメのものを教えてほしいという欲もある)

 

と、書き始めてから3週間くらいサボってるので正直継続できる気がしませんがとりあえずやってみたいと思います。
1枚目はRHYMESTERの「ダーティーサイエンス」

 

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そもそも僕が自分で音楽を聴きあさるようになったのは高校生の時に日本語ラップにハマったのがきっかけ。
そしてその日本語ラップにハマったきっかけがRHYMESTERなんですよ。
今まで感じたことないラップという歌唱方法も勿論衝撃だったのですが、特にびっくりしたのはウィットに富んだリリック内容。

 

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あのウサギとカメの例のレースは
教訓としてアレなケース
勝者敗者いずれにしたってダメ
ウサギはバカで油断しちゃっただけ
ある意味カメはさらにそれ以下
敵のミス待ちってそれでいいのか?
-マニフェスト収録『K.U.F.U』

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神奈川から多摩川渡って世田谷
流れ着いた所は仲間が住む幡ヶ谷の一角
扉開ければ俺の隠れ家
何もお構いはできませんが来たきゃ来れば?
-グレイゾーン収録『WELCOME2MYROOM』

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いや、情報量多くね?
歌詞の中で童話のキャラクターにダメ出しするって何?
自分の居住地域表明して来たきゃ来ればって俺に対して言ってきてんの?
なんかよくわかんねえけどかっこええ…。

 

あとから日本語ラップ界隈を掘っていって、ここまで理屈っぽいリリック書く人はむしろ少ないと気づいたのですがその理屈っぽさこそが自分にとってだいぶツボで。
関西出身なこともありお笑い番組がよく休日の昼間にやっていたのですが、そこで見ていた畳み掛けるしゃべくり漫才の雰囲気をHIPHOPというジャンルから感じとったんですね。
いまだに「上手いこと言ってるかどうか」がそのラップを好きになるかの個人的基準になっていますが完全にRHYMESTERのせいです。

 

それから過去作から客演曲までガンガン掘りまくっていきました。
その中でも2010年以降リリースされた『マニフェスト』『POP LIFE』『ダーティーサイエンス』を自分で勝手にシリーズ三部作として一括りにしています。
その三部作の最後に来るダーティーサイエンスが今回のテーマ。

 

当時聴いた一発目に感じたのは「なんかいつもと違う雰囲気?」でした。
トラック選びやラップの手法自体はそこまで変化がないのですが、なんか違和感を持ったことを覚えてます。
何だったら聴いててちょっとしんどいなと思う時期もありました。ただ聴けば聴くほど自分の中で腑に落ちていき、今では彼らの作品で一番聴いている気がします。(ハマりたての頃はマニフェストとグレイゾーンが好きだった)
今回ブログを書くにあたり聴き直し、またRHYMESTERの他の作品もリリックを読み返してみました。
そこで気づいたのですが、このアルバム彼らの作品の中でも「テーマが特異」なんです。
そしてそのテーマとは『現代日本

 

RHYMESTERと言えば「世相を切るリリック」というイメージがあるかもしれません。
ただ一方でアルバムを通してそのテーマが主軸になっていたことは実はほとんどないんです。
①「日本語ラップシーンの中での自分たちという存在・その技術的巧さ」
②「日本の音楽シーンの中でのHIPHOP
③「政治的かどうかに関わらず生活の中で感じた様々な感情」
彼らが楽曲に使うテーマは大体この辺りでした。(それはそれで好きなんですが)
アルバムのテーマとして徹底的に現代社会を書くことは実は彼ら的にも稀なことなのではないでしょうか。

 

ただ別に政治的だから特異ってわけでもないんです。
③の一環として政治的なリリックを書くことも勿論ありました。
かつてファンの間で最高傑作と言われたアルバム『グレイゾーン』でも「911エブリディ」「フォローザリーダー」という政治批判的な曲は強い存在感を示していました。
では何故ダーティーサイエンスは特異なのか。
それは彼らの「当事者」としての思いがリリックに注ぎ込まれているから。

 

『ダーティーサイエンス』のリリースは2013年1月30日、前作『POP LIFE』が2011年3月2日リリースだったこともあり、東日本大震災以降の感情が諸に注入された作品です。
それまでのRHYMESTER現代社会をテーマにしたリリックにはシニカルな目線が目立っていたよう思います。

 

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どこか遠い国で起こった大惨事 TVで眺めてる幸せな午後三時
所詮万事 他人事なのにホントイヤな感じ
まるでガンジーよりも逆卍 旗に掲げる野蛮人たちの勝ち
みたいな不吉な時代の暗示 感じながら食べるまずいブランチ
-グレイゾーン収録『911エブリディ』

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『世界一大人しい納税者』だって
ホラ、何かと面倒くせーじゃん
ややこしー話は賢い奴に任しときゃ
全部俺のせいじゃ(まったく)ねえって訳だ
右 左で迷うくらいならアンタの言いなり
(で、何があんです? その先は?)
イヤな予感がするけど
まぁまぁ フォロー・ザ・リーダー
-グレイゾーン収録『フォロザリーダー』

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戯画的に批判対象者を描き(描きっつっても実際にこういう奴は絶対いると思いますが)、第三者の立ち場で皮肉りながら批判する方法はシンプルに「性格わり〜」というユーモアを感じますし、このような回りくどい表現が出来るのも私の好きなHIPHOPの「ウィット」ゆえのものと言えるでしょう。
※それを持って彼らを批判しようなんて思ってるわけではありません。
ただあの震災を通して我々は全員が「当事者」になりました。ならざるを得なかったわけです。RHYMESTERのメンバーもそのはずです。
だからこそダーティーサイエンスで書かれるリリックはこれまで以上に切実です。

 

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誰が敵 そして誰がフレンド 誰が悪魔 そして誰が聖人(セイント)
誰が得してて誰が許せんと 誰もが目をむいて憂う前途
デマとホントが絶えず転倒 誰の言ってることがいまトレンド?
誰のコメント 誰のレコメンド 誰がこの不安解消してくれんの
-ダーティーサイエンス収録『The Choice Is Yours』

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時間が経つのが早くてホント泣きそうだ 魔法が解けたみたいに白み出す空
都合のいい理想や偉い人の予想は 気持ちいいくらいにまた裏切ってくれそうな
新しい一日 終わっていないピンチ 次第に輪郭現し出す真実
助け合うどころか主張し合う陣地 いったいこの先何を信じる?
-ダーティーサイエンス『It's A New Day』

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主語が「どこかの誰か」から「宇多丸MUMMY-D」になったことで伝わってくるメッセージの強度は増しています。
何故なら我々も彼らと同じ経験を通して同じ当事者になったからです。
彼らが彼らの言葉で吐く不安や怒りや悲しみをリスナーもダイレクトに感じることができる(感じる状況になってしまった)。
彼らも制作にあたり実際にそれらを意識していたことをインタビューで語っています。

 

 

Mummy-D (中略)俺らもその声なき声を上げている人たちの一員だからだよ。濁流に飲み込まれてるみんなと同じ日本人として感じた思いを、そのまま歌詞として出した感じ。

 

以前自分のブログで『主張』について書きました。
2020年代の音楽の流れに『主張』という考えがが重要になってくるのではと。

 

それをこのブログを書く前から無意識レベルで感じていたからこそ、ダーティーサイエンスは自分に響いてきたのかも知れません。
『主張』する音楽の強さを遡及的に実感しました。

 

もちろん前作『POP LIFE』において身の回りの生活に着目して作品づくりをしていった結果、身の回りの生活の変化により自ずと現代日本について考えざるを得なくなったということもあると思います。
活動再開頃から「何を歌うべきか」を考えていた彼らの変化と時代の変化が良くも悪くもうまく組み合わさったとも言えるかも知れません。
私の中ではダーティーサイエンスはPOP LIFEの亜種であり、そしてPOP LIFEの雰囲気はマニフェストから続くところを強く感じるので、この三作が自分の中で兄弟作的なまとまりをしてるんすよね。

 

一方で「2010年代っぽさ」というものに今後カテゴライズされるのかなと思うのが「テーマの多さ」です。
現代日本』がこのアルバムのテーマと上述しましたが、現代日本って言ったって当たり前に広いトピックスです。
それだけでなく今作には「過去を懐かしみながらも前に進もうとする歳を重ねたRHYMESTERの言葉」というのが随所に登場します。
「グラキャビ」「ナイスミドル」がそれにあたるのですが、もしダーティーサイエンスがここ2019年頃リリースの作品ならこの2曲は削られていたでしょう(個人的にも好きな曲ですがアルバムでは浮いている)。
確固たる主張を主軸にし研ぎ澄ましていくのが20年代以降の作品の特徴になると個人的に思っているので、この辺りで時代ごとの違いを感じたりしました。

 

そしてこの記事を書くのをサボっている間にリリースされたMoment Joonのアルバム『Passport&Garcon』はまさにこのダーティーサイエンスの当事者的な目線を、主軸を極限まで絞ることでさらに純化した傑作(傑作とかそういう基準で聴いていい作品なのかすら迷いますが)になっています。
この7年の中で『主張』の表現方法がアップデートされたことが明確に見えてきます。

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というわけで2013年という時代において、その当事者感をラップ巧者の2名が表現したダーティーサイエンス改めて傑作だなという感じでした。
これは余談ですが私はこれ以降の彼らの作品に実はそんなにノレておらず…。
何故かなと自分でも不思議だったのですが、彼らの視点から主観的なものから逆方向に進み始めたからかなとブログ書いてて思いました。
超客観的な神的なまでに第三者的な立場から「諭す」リリックが増えたように感じていて、それは彼らのキャリアやスタンスを考えれば当然の変化なのですが、どうしても私は「個人的」な音楽を求めてしまうところがあるようです。

 

RHYMESTERのリリック引用してて気づいたのですが、自分宇多丸氏好きすぎますね…。